journalism mania

ジャーナリズムを研究している者の備忘録です

日本のWeb専業ジャーナリズムは収益基盤ができていない?

内外のWebメディアに詳しい佐藤慶一さんが、1年ほど前に次のようなエントリを書いていました。

 

media-outlines.hateblo.jp

 

内容は非常に示唆に富むものでした。これにインスパイアされ、今回は「日本ではWeb専業ジャーナリズムの収益基盤ができていない」と言われる問題を考えてみることにします。

 

結論から言うと、私は「収益基盤のできているWeb専業ジャーナリズムは存在する」と考えています。ただし、ビジネスモデルによっては難しい状況にあるのではないかな、と。順を追って説明しましょう。

 

私の見るところ、Web専業のジャーナリズムは現在、以下いずれかの手段で収益を上げています。

 

(1)広告収入

(2)有料課金

(3)寄付

 

(1)の「広告収入」は、通常、Webサイトのかたちでサービスを運営しています。ハフィントンポストやバズフィードがそうですね。こうした媒体では、広告枠を売るという通常のモデルでは十分な収益を得られないため、「ネイティブアド」と呼ばれる一種の記事広告に力を入れています。

 

ただし、それでも運営費用を賄って余りあるだけの稼ぎが得られるのか。そう思う理由が一つあります。ハフィントンポストもバズフィードも、もともとはアメリカのニュースサイトです。これらのサイトを日本に上陸させるにあたり、両サイトはそれぞれ、朝日新聞、ヤフージャパンという資本を潤沢にもった会社と組みました。つまり、しばらくの期間、稼げなかったとしても、保険をかけているから問題がない、というわけです。

 

こうした広告収入に依存したモデルの場合、政治・経済・国際・社会……といった硬派な記事だけを発信するわけにはいきません。基本的に広告収入はPVやUUに依存します。これらの記事では十分なアクセス数が稼げないため、「数字稼ぎ」を目的とした記事を作らなければならなくなります。そのため、こうしたモデルで運営している媒体では、数字稼ぎを目的とした記事、自分たちが発信したい記事の割合を考えながら情報発信することになります。

 

(2)の「有料課金」は、まだ数がそれほど多くはありません。一つはジャーナリストの津田大介さんが発行している有料メルマガ「津田大介のメディアの現場」。もう一つはニュース共有アプリ「ニューズピックス」の有料会員です。

 

それぞれ、どれくらい会員がいるのでしょうか。少し古い資料になりますが、2013年11月22日に配信された津田メルマガvol.101によると、その会員数は次のとおり推移しているそうです。

 

●立ち上げ期(2011年7月~2011年10月)
購読者数:0→2000

●第1次成長期(2011年11月~2012年5月)
購読者数:2000→7000

●第1次模索期(2012年6月~2013年1月)
購読者数:7000→7500

●第2次成長期(2013年2月~2013年6月)
購読者数:7500→8500

●第2次模索期(2013年7月~)
購読者数:8500→7800 

 

また、ニューズピックスのほうは、2015年12月30日付の「『NewsPicks』100万ユーザー突破、経済メディア世界一は実現可能か?梅田代表と佐々木編集長が語る想い」という記事によると、次のような会員数となっているようです。(※以下、日経新聞電子版の会員数と比較するかたちになっています)

■登録会員数

日経:275万人 vs NP:65万人

■有料会員数

日経43万人 vs NP:7千人

 思いっきり大雑把に捉えると、どちらも会員数が7000人程度。津田メルマガが月額648円なので、単純計算で454万円弱。ニューズピックスのほうは月額1500円なので、単純計算で1050万円。この中から諸経費を払うとしても、十分に回していけそうです。

 

こうした有料課金制のメディアの場合、顧客満足度を考える必要はありますが、1本1本の記事の打率を考える必要はないため、掘り下げたオリジナル記事を展開することが可能となります。

 

ただし、会員を集める段階のハードルは、かなり高いです。津田メルマガの場合は、津田さんの持つ影響力があってこそでしょうし、ニューズピックスの場合は無料で提供している「ニューズピックス」というアプリが集客のベースになっています。ここをどうクリアするかが課題となってくるでしょう。途中で脱落する会員をどう抑えるかも問題ですね。

 

(3)の「寄付」でうまくいっている日本のWeb専業ジャーナリズムは、まだないのではないでしょうか。海外では、ウィキリークス、そしてパナマ文書の報道で一躍有名になったICIJが目覚ましい実例と言えるでしょう。

 

日本でも、寄付によってWeb専業ジャーナリズムが成立するのか。政治家に対する献金も一般化していない風土にあっては、難しいのではないかと私は思います。下手に寄付を受け入れると、報道内容に制約が出ることもありますし……。

 

さて、結論です。日本でも、収益基盤のしっかりしたWeb専業ジャーナリズムは成立していると考えます。ただし、現状うまくいっているビジネスモデルは(2)の有料課金のみ。(1)の広告収入モデルで運営しているメディアは、これからが勝負だと思います。