朝日新聞がSNSを使って行った調査報道がアツい
関東地方はものすごい台風に見舞われている最中ですね。いかがお過ごしでしょうか。
少し前の8月19日、朝日新聞が次のような記事を発表しました。
朝日新聞がSNSを使って公立中の制服について調査を行い、それをもとに取材をした、と。「なぜ?」と不思議に思い、記事を読んでみたところ、末尾のほうにこう記されていました。
公立中学の制服価格を調べるきっかけは、14年秋、生活苦で精神的に追い込まれた母親が一人娘を殺害した事件でした。この母親は、娘の中学の制服代としてヤミ金融から7万5千円を借りていました。
貧困にあえいでいたとしても、容赦なく降りかかってくる出費はある。ということで、これは非常によい調査報道ですね。お金もかからないですし。
ただし、14年秋の事件から考えると、少し時間が経っているのが気になります。なぜこのようなタイムラグが生じたのか。また、47都道府県ではなく、29都道府県にとどまっているのも、網羅性という意味では疑問符がつきますね。
とはいうものの、庶民に寄り添った報道をしているという意味では、非常に優れた記事だと思いました。こういう試みが大手報道機関でも増えてくるとよいですね。
【戯れ言】ZINEとインターネットはなぜ相性がいいのか
※何となく考えていることを、特に裏を取ることなく書き記すというエントリです。
ZINEとインターネットって、すごく相性がいいんじゃないかと思うんですよね。なぜか?(ここから先は戯れ言です)「ZINE」って同人誌じゃないですか。載っているのは、同好の士で分かち合うようなマニアックな情報。
一方、ニッチな趣味を持っている人が出会えるネットワークがインターネットです。つまり、同好の士が見つけやすい。
しかもネットではマスメディアでも手に入るような一般的な情報よりも、マニアックな情報が価値を持ちます。だから、ZINEで活動していた人たちが「サブカルエリート」として活躍できるような土壌となりうる。
ただ、ZINE的なるものは、あくまでもアンダーグラウンドカルチャーであって、メインには出てきにくい。どっちかと言うと、メジャーで活動しているクリエイターたちにリスペクトされるような「クリエイターのためのクリエイター」的な立ち位置じゃないかと。
こういうZINE的なるマニアックな世界は、紙の時代には特殊な場所で売買され、一般の人の目に触れることはありませんでした。それが検索さえすれば、誰でもたどりつける情報になったということは、非常に大きな変化です。
とはいうものの、インターネットで手に入る情報を三角形のヒエラルキーで表したとしたら、たぶんすごく上澄みの部分で、やっぱりくっきり分かれているような感じもする。
社会学では「エコー・チェンバー」がよく持ちだされますが、ネットは自分がふだん摂取しているのとは違う異質な情報を得る場にはなりえないのでしょうか。Yahoo!のようなサイトががんばれば、変わってくる気がするんだけどな……。
あ、今いいこと思いついた。媒体資料を読み解いてみたら、面白いと思いませんか? これからやってみようかな。
自治体のサイトには「東日本大震災」というワードがどれくらい登場しているか?
ジャーナリズムの世界では、数年前から「データジャーナリズム」が話題になっています。最近では、どちらかというと「データビジュアライゼーション」という名前で関連イベントがよく行われていますね。
というわけで、だいぶ時間が経ってしまいましたが、先日、とあるデータビジュアライゼーションのハッカソンに参加し、勉強してきました。
「NDLデータ利活用ワークショップ~ウェブ・アーカイブの自治体サイトを可視化しよう~」を開催します | NDLラボ
私はツールの使い方を教えてもらえる超初心者コースに参加。使ったのは「CARTO」というツールです。
これは平たく言うと、いろいろなデータを地図上にマッピングできるツールです。これに国会図書館のデータベースからもってきたデータを置いてみよう、というわけです。
国会図書館では、自治体をはじめとする公的なサイトを、定期的に保存し、アーカイブする「WARP」と呼ばれる事業を行っています。これを使ってデータをビジュアライズせよ、というのが今回のお題です。(以下がそのデータベースです)
イベントから時間が経っているので、復習がてら作品を作成。各自治体のサイトを都道府県別に見た時、「東日本大震災」というワードがどれくらい出現するかを調べてみました。
2013年の結果は以下。色が濃いほど、ワードの出現数が高くなっています。石川県、愛知県、神奈川県、東京都、千葉県のほか、熊本県がもっとも濃い色になっていますね。
2年後の2015年の結果は以下。北海道以下、太平洋沿岸に位置する都道府県がもっとも色が濃くなっています。
先ほどのデータベースでひとつひとつのサイトにあたっていけば、なぜ2年でこのような変化が生じたかわかるはず。
やってみて思ったのですが、こういうデータを利用したコンテンツでは、読み解きの能力が問われますよね。精進しよう……。
というわけで「やってみたよ」という報告でした。
東京新聞の独自路線に感動
みなさんは新聞をとっていますか? 私は長らく、ネットに上がっている記事だけを見るという生活を送ってきました。しかも、どこかのニュースサイトを見るのではなく、TwitterやFacebookに流れてきた記事を、単品で読むという生活。ジャーナリズム研究をしているにもかかわらず、これではいけないと思い、新聞を購読することにしました。
で、どの新聞にしようかな……と思った時、選択肢として浮かび上がってきたのは、朝日新聞と東京新聞の2紙。悩んだ末に、東京新聞を購読してみることにしました。理由は、その報道姿勢が外国人記者から高く評価されているから。詳細は、以下の記事に詳しいです。
というわけで、本日から購読を開始。本日の朝刊一面は、次の記事でした。
自民党は改憲の根拠を「現行憲法の9条はGHQから押し付けられたものだから」としていますが、そうした通説を覆す証拠が見つかったぞ、という記事です。朝日新聞では、決して一面を飾らないでしょうね。
このほか「こちら特報部」というコーナーでは、独自に取材した問題を取り上げていて、読み応えがあります(今日は刑務所暮らしをしていた人々が出所した後の問題を扱っていました)。無駄に厚くないのも魅力。これならば読みきれます。というわけで、しばらく東京新聞を購読してみるつもりです、というご報告でした。
文章書きにアウトライナーが使えそう
みなさんは文章をどうやって書いていますか? 私はブログを書く時は、基本的に直打ちです。それ以外の文章では、テキストエディタを使っています。ただ、頭から文章を書き下すのがもともと苦手で、話が脱線しがちになるため、文章書きが効率化できるようなツールはないかな、と思っていました。
ひょんなことからアウトライナーである「Workflowy」を知り、興味を持っていたのですが、自分のように前後の文章を調整しながら書いていくタイプの人間には、あらかじめアウトラインをかっちり作って書いていく方法は無理……と敬遠していました。
ただ、次の本を読んで認識が変わりました。
アウトライン・プロセッシング入門: アウトライナーで文章を書き、考える技術
これは長年のアウトライナー遣いであるTak.さんが、アウトライナーを使った生産的な文章作成の方法を伝授するという本です。Kindle Unlimitedの会員であれば、タダで読めてしまいますが、お金を支払うに値する知見が詰まっています。
何よりも大きな気付きは、「思考はとっ散らかったままでいいんだ」というものでした。通常、文章を書くときは、流れを作りながら細部の表現を調整するという作業を同時並行で行っています。これは脳みそにとって、結構な重労働。だから、まずはバーッと書いてしまって、アウトライナーを使いながら流れを作っていけばいいのだ、と。本文で紹介されている文章作法は、理にかなっていて実用的です。
実は、少し前に、自分にとっては難しい執筆仕事を引き受ける機会があったのですが、その時、知らずに実践していたのがTak.さん風の文章作法でした。まさかあの時に自分で編み出した方法に、この本で出会うとは……。
実践にあたってハードルが高いと思われるのは、「どのアウトライナーを選ぶか」というところでしょうか。Macの方はいくつか選択肢があるようですが、Windowsユーザーだとアップデートが2009年で終わっているSol、もしくはWebベースのWorkflowyということになってしまいそうです。Windowsユーザーの私は、ひとまず一定期間、両者を併用しつつ、どちらにするかを考えてみようと思います。
実は執筆統合環境の「Scrivener」も気になっているんですよね。トライアル版をダウンロードしてみたのですが、多機能ゆえにインタフェースがゴテッとしていて、シンプル至上主義の私には合わないのかな……と思っているところ。どなたか実際にお使いの方、Scrivenerの良さはココだよ! と教えていただけるとうれしいです。
メディア環境が変わると、ジャーナリズムのあり方も変わる
今さら言うまでもなく、日本人を取り巻くメディア環境は大きく変わりつつあります。その中でジャーナリズムのあり方も変化を遂げているのではないかな――と思っていたところ、次の記事を読みました。
内容をざっくりまとめると、「メディア環境の変化によって情報コントロールの主導権がユーザーに移り、彼らと関係のある文脈でコンテンツを作る力が求められてきているよね」っていう話です。メディア関係者ならば、うんうんと頷けるでしょう。
ジャーナリズムに話を限ると、「ユーザーに寄り添う」という視点が今まで欠けていたのではないかと思うのですよね。もともと、一般市民に代わって司法・立法・行政などの権力を監視し、民主主義を護るという役割を担っていたはずなのに、「自分たちが社会の木鐸じゃあ!」という意識が強すぎて、受け手不在のまま作られてきた……というか。
Webメディアの場合、マスメディアと違って、それでは立ち行きません。元来、ユーザーに選ばれた情報だけが消費されるメディアです。ことに、上記の記事でも指摘されているように、次のような環境の変化によって、さらにユーザーの文脈を踏まえたコンテンツ展開が重要になってきています。
(1)スマートフォンの普及
(2)SNS中心の生活
(3)キュレーションメディアの台頭
(4)検索行動の変化
(5)オンライン動画閲覧数の増加
「ジャーナリズム」に限った話をするとしたら、記事の中でも指摘されているように分散型で展開することも必要でしょうが、何よりもユーザーの問題意識に沿ったコンテンツの提供も求められてくると思います。
私が注目しているのは、解説型メディアの一つである「弁護士ドットコムニュース」です。
弁護士ドットコムニュースでは、読者にとって身近な問題、そしてニュースで話題になっているトピックを取り上げ、法律的に考えるとどうなるのかを弁護士の見解を交えて解説しています。これは、まさにユーザーの文脈に沿ったニュースですよね。
私はジャーナリズム系Webメディアに求められるのは速報性ではないと思っています。大きなニュースを一次情報から取ってきて配信できるのは、それなりの資本と記者ネットワークを持っているマスメディアと彼らが運営しているWebメディアです。少数で運営しているジャーナリズム系Webメディアでは、異なる切り口で勝負するしかありません。
「マスメディアのストレートニュースを受け、別の切り口からユーザー視点の記事を作る」という意味で言うと、弁護士ドットコムニュースはお手本のような存在ですが、ハフィントンポストやバズフィードも気を吐いています。
加えて、ジャーナリズム系Webメディアでは、検証可能性も要求されるようになってくるのではないかと思っています。従来のマスメディアでは、取材過程はブラックボックスの中に閉じ込められ、記者が書いた記事が読者に提示されて終わりでした。しかし、Webでニュースを消費するユーザーたちは、少し疑わしい情報があると、「ソースはどこ?」と聞くのが常です。こうしたメディア・リテラシーの高い人々は、書き起こしサイトの「ログミー」や動画サイトの「YouTube」「ニコニコ動画」、そして各種公的機関のWebサイトで噂を検証します。
「生データ」が重視されるようになっている現在、データを分析・可視化し、そこから新たな意味を浮かび上がらせるという「データ・ドリブン・ジャーナリズム」は、もとになったデータを読者が検証できるようにしているという意味で、伸びしろがあるのではないかな、と思います。
さらに、ジャーナリズム系Webメディアでは、リアルタイム性も重視されていると思います。これは速報性とは似て非なるものです。選挙戦やトルコのクーデターなど、多くの人が興味を持っているニュースの動向をリアルタイムで更新していく。テレビはともかく、新聞にはこれができません。そういう意味では、NHKなどが実践している「ライブブログ」はもっと注目されてもよいでしょう。
分散型メディアの話からだいぶ逸れてしまいました……。結論から言うと、タイトルどおり「メディア環境が変わると、ジャーナリズムのあり方も変わる」。ジャーナリズム系Webメディアは、よりユーザーに寄り添ったかたちで、これからも進化を遂げていくでしょう。今後が楽しみです。
日本のWeb専業ジャーナリズムは収益基盤ができていない?
内外のWebメディアに詳しい佐藤慶一さんが、1年ほど前に次のようなエントリを書いていました。
内容は非常に示唆に富むものでした。これにインスパイアされ、今回は「日本ではWeb専業ジャーナリズムの収益基盤ができていない」と言われる問題を考えてみることにします。
結論から言うと、私は「収益基盤のできているWeb専業ジャーナリズムは存在する」と考えています。ただし、ビジネスモデルによっては難しい状況にあるのではないかな、と。順を追って説明しましょう。
私の見るところ、Web専業のジャーナリズムは現在、以下いずれかの手段で収益を上げています。
(1)広告収入
(2)有料課金
(3)寄付
(1)の「広告収入」は、通常、Webサイトのかたちでサービスを運営しています。ハフィントンポストやバズフィードがそうですね。こうした媒体では、広告枠を売るという通常のモデルでは十分な収益を得られないため、「ネイティブアド」と呼ばれる一種の記事広告に力を入れています。
ただし、それでも運営費用を賄って余りあるだけの稼ぎが得られるのか。そう思う理由が一つあります。ハフィントンポストもバズフィードも、もともとはアメリカのニュースサイトです。これらのサイトを日本に上陸させるにあたり、両サイトはそれぞれ、朝日新聞、ヤフージャパンという資本を潤沢にもった会社と組みました。つまり、しばらくの期間、稼げなかったとしても、保険をかけているから問題がない、というわけです。
こうした広告収入に依存したモデルの場合、政治・経済・国際・社会……といった硬派な記事だけを発信するわけにはいきません。基本的に広告収入はPVやUUに依存します。これらの記事では十分なアクセス数が稼げないため、「数字稼ぎ」を目的とした記事を作らなければならなくなります。そのため、こうしたモデルで運営している媒体では、数字稼ぎを目的とした記事、自分たちが発信したい記事の割合を考えながら情報発信することになります。
(2)の「有料課金」は、まだ数がそれほど多くはありません。一つはジャーナリストの津田大介さんが発行している有料メルマガ「津田大介のメディアの現場」。もう一つはニュース共有アプリ「ニューズピックス」の有料会員です。
それぞれ、どれくらい会員がいるのでしょうか。少し古い資料になりますが、2013年11月22日に配信された津田メルマガvol.101によると、その会員数は次のとおり推移しているそうです。
●立ち上げ期(2011年7月~2011年10月)
購読者数:0→2000●第1次成長期(2011年11月~2012年5月)
購読者数:2000→7000●第1次模索期(2012年6月~2013年1月)
購読者数:7000→7500●第2次成長期(2013年2月~2013年6月)
購読者数:7500→8500●第2次模索期(2013年7月~)
購読者数:8500→7800
また、ニューズピックスのほうは、2015年12月30日付の「『NewsPicks』100万ユーザー突破、経済メディア世界一は実現可能か?梅田代表と佐々木編集長が語る想い」という記事によると、次のような会員数となっているようです。(※以下、日経新聞電子版の会員数と比較するかたちになっています)
■登録会員数
日経:275万人 vs NP:65万人
■有料会員数
日経43万人 vs NP:7千人
思いっきり大雑把に捉えると、どちらも会員数が7000人程度。津田メルマガが月額648円なので、単純計算で454万円弱。ニューズピックスのほうは月額1500円なので、単純計算で1050万円。この中から諸経費を払うとしても、十分に回していけそうです。
こうした有料課金制のメディアの場合、顧客満足度を考える必要はありますが、1本1本の記事の打率を考える必要はないため、掘り下げたオリジナル記事を展開することが可能となります。
ただし、会員を集める段階のハードルは、かなり高いです。津田メルマガの場合は、津田さんの持つ影響力があってこそでしょうし、ニューズピックスの場合は無料で提供している「ニューズピックス」というアプリが集客のベースになっています。ここをどうクリアするかが課題となってくるでしょう。途中で脱落する会員をどう抑えるかも問題ですね。
(3)の「寄付」でうまくいっている日本のWeb専業ジャーナリズムは、まだないのではないでしょうか。海外では、ウィキリークス、そしてパナマ文書の報道で一躍有名になったICIJが目覚ましい実例と言えるでしょう。
日本でも、寄付によってWeb専業ジャーナリズムが成立するのか。政治家に対する献金も一般化していない風土にあっては、難しいのではないかと私は思います。下手に寄付を受け入れると、報道内容に制約が出ることもありますし……。
さて、結論です。日本でも、収益基盤のしっかりしたWeb専業ジャーナリズムは成立していると考えます。ただし、現状うまくいっているビジネスモデルは(2)の有料課金のみ。(1)の広告収入モデルで運営しているメディアは、これからが勝負だと思います。